名画で巡る、冷酷で無慈悲と言われた冥府の王ハデスの本当の姿

ギリシャ神話(神話画)

こんばんは、大人の美術館ナビゲーターのビー玉(@beedama_lab)です。

ギリシャ神話を扱う映画や物語では悪役をあてがわれることが多く、

人々からは「いかなる願いも聞き入れてもらず貢物も受け取らない冷酷で無慈悲な神」として恐れられた冥府の王ハデス。

ハデスは本当に冷酷で無慈悲な神だったのでしょうか?

本日はそんなハデスにスポットを当てて名画を鑑賞をいたしましょう。

霊魂が彷徨う漆黒の冥府にあなたをナビゲートします。

よろしければ最後までお付き合いください。

ハデスが冥府の王になるまで

ギリシャ語名:ハデス。英語ではプルート。
ハデスは縁起の悪い名前として避けられていたため、富めるものという意味のプルトンと呼ばれることもある。ゼウスの兄弟、死者の住む冥界を支配する神。アトリビュート:被ると姿を消せると言われるカブト、二又の矛(ほこ)、三つの頭を持つ犬ケルベロス、糸杉、ミント、柘榴、メンフクロウ

ハデスは冷酷で無慈悲だったから冥府の王に抜擢されたのでしょうか?

じつは全く違うんです。

ハデスは、ただただ運がなかったから暗くて寂しい冥府を統治することになってしまっただけなんです。

【ハデス冥府の王になったわけ】
冷酷で無慈悲 ×
運がなかった ○

 

ハデスはゼウスやポセイドンの兄弟神とともに父クロノスを倒し、現在まで伝わるオリンポス山に住まう神々を主としたギリシャ神話の礎を築きました。

世界の覇権を手にしたゼウス、ポセイドン、ハデスは世界を三つに分けます。

そして誰がどこを統治するかをクジで決めたんです

結果、ゼウスは天界、ポセイドンは海、ハデスは冥府と割り振られました。

 

館長
館長

そんな重要なことをクジで決めたんですか?

まぁ、神としての力は甲乙付けがたく、クジで決めるしかなかったんでしょうね。

ゼウスもハデスについて「ハデスが私よりも劣っているとしたら、クジ運だけ」と言っていますし(゚∇゚ ; )

 

以降、ハデスは絶え間なく送り込まれる死者の対応に追われ、地上に姿を表すこともほとんどなくなります。

ところがある日、静かな冥界に「どかーん!」という爆音が鳴り響きました。

地上が裂けて、日光が入りでもしたら死者たちが驚くと心配したハデスは冥界から地上に偵察に出かけます。

 

ビー玉
ビー玉

ハデス優しいっ

 

爆音の正体は地上でエトナ山が噴火で、大きな被害も出ていないことにひと安心。

冥界へ戻ろうとしたハデスは、ある少女を目にします。

ハデスの純情

古代フレスコ画「春」古代フレスコ画『春』(ペルセポネとも言われる)

 

その時にハデスが目を奪われたのは輝くばかりの美しい乙女ペルセポネ(ローマ名はプロセルピナ)。

 

ペルセポネはハデスと結婚してからの名前で、元々は乙女という意味を持つコレーという名前でした。ここではわかりやすいようにペルセポネに統一。

 

ハデスはペルセポネに一目惚れ。

 

ハデスの突然の恋は、美の女神ヴィーナスが自分に誘惑されないハデスに腹をたててキューピットの恋の矢で恋に落としたという説もあります。

もしかしたら、噴火の爆音による「吊り橋効果」が発動したのかもしれません。

 

吊り橋効果とは、吊り橋を渡るドキドキ感と恋のドキドキ感を勘違いする効果

 

ハデスといえば、エピソードも少なくペルセポネを略奪する場面ばかりが描かれるので、出会った瞬間に無理矢理拉致して冥府に連れて行ったという乱暴なイメージがあるかもしれません。

だけど、真面目なハデスはそんなことはしないんですっ

ペルセポネの父であるゼウスに「ペルセポネを嫁にもらいたい」とお伺いを立てて、ゼウスはそれを快諾。

ペルセポネの父(ゼウス)に事前にお許しをもらっていたんですね。

当時は本人同士の意見なんて聞かず親の決めた人のところに嫁ぐのが普通だっただろうし、

 

ハデスに落ち度があるとすれば、ゼウスに恋の相談をしてしまったこと!

女性経験が極端に少ないハデスは、どうやって女性を口説いたらいいかをゼウスに尋ねます。

ゼウスの答えは・・

 

ゼウス
ゼウス

女性はサプライズが好き

ゼウス
ゼウス

女性は強引な男が好き

ゼウス
ゼウス

嫌よ嫌よも好きのうち

なんの前触れもなく気に入った女性を連れ去ることを得意とするゼウスらしい答えです( •ὢ•)

女性経験豊に見えたゼウスの言葉を完全に信じたハデスはその言葉どうりに実行に移します。

 

ペルセポネ略奪事件

ペルセポネがいつものように花を摘みに野に出ると、見慣れない美しい花を見つけました。

その花を手にした瞬間、地が避けてハデスが現れるというサプライズを決行!

 

そして嫌がるペルセポネを無理矢理冥府に連れていくという強引さを演出しました。

ベルニーニ『ぺルセポネの略奪』1621〜1622年

ベルセポネの略奪場面は美術館において人気のあるテーマで数多くの芸術が生まれましたが、その中での最高峰はベルニーニの彫刻!

その場の喧騒と緊張感、ペルセポネだけでなくハデスの戸惑いと焦りも伝わる臨場感です。

 

こんな強引なサプライズをペルセポネが喜ぶハズもなく冥府では地上恋しさに泣くばかり・・

 

ペルセポネを溺愛していた母デメテルはゼウスから何も聞かされておらず、突然娘を奪われた怒りと悲しみで女神業を完全放棄。

その間、地上では植物が育たず大飢饉が襲ったと言われています。

このままでは人間が滅んでしまうと焦ったゼウスはペルセポネを地上に戻すようにハデスに使者をだすも時すでに遅し!

ロセッティ『プロセルピナ(ペルセポネ)』1874年

ペルセポネはすでに冥府の柘榴を数粒口にしており、完全に地上に戻すことは叶いませんでした。

冥府には冥府の食べ物を口にしたものは、地上には戻れないというルールがあったんです。

そりゃぁ死者が自由に地上に戻っては大変なことになりますからね。

 

ロセッティの描くプロセルピナのモデルは不倫相手の人妻ジェーン・モリス。

夫(ハデス)に囚われの花嫁プロセルピナとジェーンを重ねて描いていています。

実際はジェーンの夫も公認の不倫で、囚われたりはしていない自由を謳歌する女性だったんですけどね(; ̄Д ̄)

ロセッティは自分ではなく夫を選んだ人妻は、囚われの身なのだと思い込みたかったんでしょうね。

 

だけど、ペルセポネは例外的に地上に戻ることを許されます。

冥府で嘆き続けるペルセポネに困り果てていたせいか、1年のうち1/3の4ヶ月を冥府に戻ることを条件に年の2/3を地上で暮らすことを承諾。


フレデリック・レイトン『ペルセポネの帰還』1891年

ペルセポネは一旦母のいる地上に戻されます。

ペルセポネが冥府にいる4ヶ月間は、デメテルは無気力になり地上に植物は育ちません。

ペルセポネが戻る頃には地上は華やぎを取り戻し、草木は生い茂り、ペルセポネが帰る時期が近づくと寂しさを増すという四季がこのとき誕生しました。

 

ただね、冥府にいる間ペルセポネは不幸に耐えていたわけではないんですよ

ハデスって夫としてはかなりなハイスペ男子。

世界の1/3の権力を手にし、地下に眠る鉱石や宝石などの地下資源は豊富にあり誰よりも裕福。

そして何よりも、他の神々と違って浮気もほぼしません。

ハイスペ男子を夫に持ち、1年のほとんどを優しい母のいる実家で楽しく豊かに暮らせるんだから、ペルセポネほど幸せな女神はいなかったでしょう。

そして、ハデスとの仲も悪くはなかったようです。

フランソワ・ペリエ ハデスとペルセポネの前のオルフェウス 1645年

その証拠に妻を亡くしたオルフェウスが妻の命乞いに冥府まで来た時は夫婦仲良くオルフェウスが奏でる音楽の音色に耳を傾けています。

オルフェウスの妻を思う気持ちに同情して、条件付きとはいえ地上に連れ帰ることをハデスが許可したのは自分たちも幸せな夫婦だったからでしょう。

 

結果的にはオルフェウスはハデスとの約束を守れず結果的には愛する妻を永遠に失ってしまったんですけどね。

名画を通して「死」を想う!未練、悲しみ、怒り、虚無感・・そして憧れ。
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そして、夫ハデスの元カノに嫉妬して元カノを踏み潰して草に変えたというヤンデレエピソードも残っています。

しかも踏み潰された元カノは弱弱しい野草ミントにされちゃったんだとか・・ミントは好きだけど気の毒すぎる(; ̄Д ̄)

 

愛する夫、有り余る資産、実家での快適な生活を手に入れたペルセポネが唯一不満に思っていたとしたら冥府という場所でしょうね。

 

冥府とはどんなところ? 冥府ツアー

モンス・デジデリオ『冥界』1622年

冥界は地獄と一緒にされることもありますが、キリスト教や仏教のいうところの地獄とは全く違います。

ハデスは死者に対して管理はしますが罰することはありません。

まず人が亡くなると伝令の神ヘルメスに導かれてステュクスの河を渡ります。

河を渡ると三つの頭をもつケルベロスが番をしている門を通って冥府に入るのですが・・

入る時はおとなしいケロベロスも冥府から出ようとする死者には容赦なく襲いかかってきます。

門をくぐる前には思い残したことがないか、しっかり確認してください。

 

生前によほどの大罪を犯していない限りは、舌を抜かれることも地獄の業火で焼かれることもなく、生前と同じように生活できます。

 

ただし、誰かと会話することはなく、たった一人で1日のルーティーンを黙々とこなすことになるんですけどね。

 

館長
館長

地獄に落とされるよりも過酷ではないですか?

ビー玉
ビー玉

一人が好きな方にとっては楽園でしょう

 

ペルセポネにしてみれば有り余る資産があろうと、遊ぶ場所もなければ女子トークする相手もいません。

どんなにハイスペ婚をしても、マウントをとる相手もいないんじゃ嬉しさ半減どころではなかったでしょう。

 

ビー玉
ビー玉

あくまでもイメージです。

ハイスペ婚なんてしたことないしw

 

夫は仕事が忙しく、融通の効かないタイプですし、寂しい思いもしたでしょう。

ずっと冥府暮らしだと夫婦仲だって冷え込んでいったと思います。1年のうち数ヶ月だけなら愛想良くもできるというもの!

夫婦にはほどよい距離感が大切なのです( *゚д゚))ウンウン

 

悪くいえば融通がきかない、良くいえば公平

ハデスってゼウスにも勝るとも劣らない力を持った神様でありながらハデスを祀る神殿はほとんどありません。

「いかなる願いも聞き入れてもらえず貢物も受け取らない冷酷で無慈悲な神」

ハデスの神としての評価もあまりよくはないんです

 

これほど人望(神望)がなかった原因は、ギリシャ人の気質が先のことを心配してもしょうがないって感じで死後の世界に興味がなかったこと、

そして、どんな貴重な貢物をしても死者を蘇られせてはくれなかったことにつきると思います。

 

しかし、決して冷酷で無慈悲な神だったのではなく、誰に対しても公平だっともいえます(例外もありますが)。

そして、人間(神)らしいエピソードもあるんですよ。

ハデスのペット(?)であるケロベロスを荒くれ者のヘラクレスに貸して欲しいと言われたときは「決して乱暴に扱わず傷つけない」という条件を出すくらい大切にしていたり、

唯一といってもいいハデスの神殿を構える土地が襲撃にあった時は駆けつけたりもしています。

全く人間に慕われていなかったわけでもありません。

せめて死後の世界では幸せになりたいとハデスを慕う貧しい民も決して少なくはなかったものの、貧しい民は神殿なんて建設できませんからね。

神殿の有無に文句を言うことなく死者たちを公平に扱い、どんな死者でも丁寧に弔うことを定めたのもハデス。

貢物をされたからといっても手助けすることもなかったですが、弱い人間に対して罰を与えることもありませんでした。

華々しい活躍はないけど、地味に良い神様なんですよ・・・

いやむしろ、女性に対して鬼畜の所業を繰り返すゼウスに比べたら善良すぎて心配になるレベル(ノД`)シクシク

私たち庶民には神殿を立てることはできませんが、映画などでゼウスを倒してオリンポスを乗っ取る悪役として描かれることが多いハデスを、ほんとは違うんだぞぉって心の中で思うくらいはしたいものです。

本日は以上です。お読みいただきありがとうございます。

 

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一週間に1度の開館を目指しています(なかなか難しいのですが・・・)。

またのご来館を心よりお待ちしております

 

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コメント

  1. aiai より:

    「女性はサプライズが好き」「女性は強引な男が好き」「嫌よ嫌よも好きのうち」とか言うゼウス怖いし、それ鵜呑みにしちゃったハデスばかー( ;∀;)
    案の定、ペルセポネ嫌がってるじゃん!
    と思ったら、ハデスが嫌なんじゃなくて冥府という環境が嫌だっただけなのね~
    結局、ゼウスのおっさんが言うことは間違ってなかったのか。。。?w

  2. ( ゚д゚)ウム 常にソロキャンプ状態やな。 しかし、いつもいつもゼウスだっきゃ。笑

  3. Nick Ollie より:

    ほんとゼウスには困ったもんだ。女はたぶらかすは、おくての男には違うこと教えるは。
    ハデス、ええやつやん。真面目すぎる。

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