こんばんは、大人の美術館ナビゲーターのビー玉(@beedama_lab)です。
清らかな乙女にしか近寄らない伝説の聖獣「ユニコーン(一角獣)」
ユニコーンといえば、西洋絵画でもよくよく登場する白馬の頭に長い螺旋状の角を持つ生き物だと知ってる人は多いと思います。
ただ、出どころが聖書なのかギリシャ神話なのか、はたまたまったく別の何かなのかは知らないという方がほとんじゃないでしょうか?
世界中あらゆる伝承に存在していて、じつは旧約聖書の「ノアの方舟」にも乗っていという謎の生き物。
ユニコーンの世界にあなたたをナビゲートします。
よろしければ、最後までお付き合いください。
強そうなロバという扱いだったユニコーン
ユニコーンが人間の前に現れ始めたのは紀元前を4000年もに遡ります。
一角獣と銘文のある印章(紀元前2010年)クリーヴランド美術館
アッシリア文明(紀元前3000年ごろ)のレリーフやインダス文明(紀元前2000年ごろ)の印章などに姿を現します。
だけど、このころはまだ馬というよりは牛よりなヴィジュアル。
紀元前4世紀ごろに医師で歴史家だったクテシアスがユニコーンについて記述したのがヨーロッパでは最古じゃないかと言われています。
その内容は、当時はまだ想像の国でしかなかった「インド」に生息している頭に角(つの)があり、足が早く獰猛で長さ約71cmの野生のロバという扱いw
そのなんだか強そうなロバが西洋でのユニコーンの原型です。
身体の特徴の他にも、角は薬として使うことができて、肉は苦くて食べられないなどと書かれていました。
処女厨ユニコーンは聖書の誤訳から始まった
フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニ『ユニコーンとの純潔』1463年
インドの強そうなロバはラテン語で一本角の意味のモノケロース(ūnicornis)と呼ばれていました。
モノケロースを英語読みするとユニコーン。
想像上のモノケロース(13世紀)サンジョヴァンニエヴァンジェリスタ大聖堂の床モザイク
そして、旧約聖書をヘブライ語からギリシア語に翻訳する際、二角獣(野生の牛)という意味の「re'em」を一角獣を意味する「ūnicornis(モノケロース)」に誤訳されしまい、聖書にユニコーンが登場することになります。
※現代の聖書では野生の牛と訂正されています。
そして、遠くインドの仙人リシュヤ・シュリンガの出生の秘密がユニコーンと聖母マリアを結びつけました。
シュヤ・シュリンガは彼の母に欲情した神様二人が川に放った精液を飲んだ鹿から生まれました。
鹿から生まれたのが頭にはツノがあります。
どこから突っ込んでいいのかわかりません
なかなかカオスな出生話しですが、頭に角をもつシュヤ・シュリンガは両親の性交渉の結果生まれたのではないとだけご理解ください。
・ギリシャ人がインドに生息していると信じたユニコーン
・性交渉により生まれていないインドの仙人の伝説
・処女懐妊した聖母マリアと息子キリスト
これら出会うはずのなかったエピソードが聖書の誤訳によって奇跡のマッチングを果たし、処女にしか懐かず処女以外にはやたらと厳しいユニコーン像ができあがったというわけです。
マーティン・ショーンガウアー『ユニコーンの神秘的な狩り』1489年
キリスト教では聖母マリアの膝でくつろぐユニコーンはイエス・キリストの象徴です。
乱暴者で処女が好き!ユニコーンの生態
古代ギリシャから「ユニコーンの角」には解毒効果や治癒能力があると信じられていたので、人々は見たこともない一角獣の捕獲方法が真剣に検討し続けてきました。
検討したって、実際に捕まえられた人はいませんけどね
ユニコーンはその美しい外見と裏腹に気性がとても荒らいんです。
怒らせると猪突猛進、全速力で角で刺しにきます。
『暴れるユニコーン』タペストリー1495~1505年
そんな一角獣を狩る方法は2つ!
一つは一角獣の短気な性格を利用します。
隠れ身の術大作戦
『ユニコーン発見』タペストリー 1495–1505年
まずユニコーンを怒らせます。
怒りのあまり全力で向かってくる一角獣をすんでのところで交わして木の陰に隠れます。
ユニコーンが人と間違って木に突き刺さったところを取り押さえる作戦。
処女を使ったハニートラップ
彩色写本の挿絵より 1470年
処女をおとりにする作戦です。
処女の香りを嗅ぎつけたユニコーンは乙女に近づき、清らかな乙女の膝枕で眠ります。
ここだけ読むと変態以外の何者でもない
油断して熟睡しているユニコーンを捕まえるという作戦。
ちなみに処女を偽った非処女の場合はためらいなく刺し殺されるのでご注意ください。
ユニコーンを捕らえるための作戦は確立されてきますが・・・。
大切なことななので、もう一度言います。
誰もユニコーンを捕まえたことはおろか、見たこともないんですけどね
見たこともないユニコーン狩りに人々はなぜ駆り立てられたのかといえば、ユニコーンを角とされるものが実際に高価に取引されていたから!
もちろんそれは一角獣の角ではなく、ユニコーンの角のモデルとされた海の生き物で鯨の仲間の「イッカク」の角にしか見えない “歯”。
そう、角じゃなくて歯!
かわいそうなイッカクは、ユニコーン伝説とは無関係なのに乱獲されることになりました。
ユニコーンがいかに獰猛かをしつこく書いているのも、このイッカクの歯を高値で取引するためなんじゃないかなと思っちゃう( •ὢ•)
人々はユニコーンを見たことがなくてもイッカクの歯は見ていたのでユニコーンの存在を信じ切っていたんです。
嘘は真実を少し混ぜることで真実味を増すんです
完全に詐欺ですけどねっ
清らかな乙女アピールに使われたユニコーン
さすがにユニコーンの存在が疑われるようになる14世紀ルネサンス期。
思わぬところでユニコーンは活用されることになります。
それは、結婚前の乙女達の肖像画!
ラファエロ・サンティ『ユニコーンを抱く乙女』1506年
この娘は清らかですというアピール大作戦。
ユニコーンは処女にしか懐かないという刷り込みが人々にはあったので、たとえ絵でもユニコーンを抱く乙女は清らかに見えたのでしょう。
その効果は大きかったんじゃないかなぁ(*´罒`*)ニヒヒ
『貴婦人と一角獣(我が唯一の望み)』15世紀のタペストリー
処女アピール以外にも、未来の妻に貞淑を願う男性がユニコーンをテーマにした絵や家具を贈るのも流行ります。
今の感覚だとよくわかりませんが、DNA検査なく避妊も不確かな時代に確実に自分の子ども(後継者)を得るためには処女にこだわるしかなかったのかなと思います。
ノアの方舟にも乗っていたユニコーン
16世紀 フレスコ画
聖書には記述はなく、聖書を元にした伝承という形ですが、
ポーランドやロシアの民話にはユニコーンが一対でノアの方舟に乗せられていたというお話も残っています。
ノアとは、神様から方舟を作れと言われ、言われた通りに巨大な船を作って家族と地上に生息する動物たちオスメス一対を方舟にのせて大洪水の難を逃れた善人ノア
ノアの方舟について詳しくしりたい方はこちらの記事をご参照ください▼▼
13~15世紀の祈祷書 挿絵
ノアの方舟に乗せられながら、なぜユニコーンは生き残れなかったのか?
それは、獰猛なユニコーンは方舟の中で暴れて他の動物を見境ないく刺し殺してしまいノアに船から降ろされたからです。
他の動物達がノアに服従したのに、ユニコーンにはそれができなかった。
傲慢で自分勝手なユニコーンは自ら滅びたという寓話になっています。
だけど、ノア(人間)が自分たちの手に余るものに手を出さなれけば、ユニコーンが殺害してしまったいくつかの貴重な種を失わなくてすんだのにって思ったりするんですよね。
世界にはユニコーンのように人間が踏み込んではいけない領域もあると思うので、傲慢に踏み込みすぎないようにしたいものだなとおもいつつ・・
本日は以上です。
お読みいただきありがとうございます。
またのご来館をお待ちしております。
コメント
ユニコーンにこんな裏話がたくさんあるなんて、知らなかったわ。いろんな嘘が少しずつ散りばめられて、本当の話になっていくってのが、なるほどと思いました。それにしてもかわいそうなのが海のイッカクだ。
Nickちゃん、コメントありがとうです♪
嘘も突き通せば本当になるというし(゚∇゚ ; )
ほんと、一角はかわいそうに、牙というか歯というか・・本当に効能があったんだろうか?
信じるものは救われる的な感じでたまたま調子がよくなった人もいたんだろうねぇ( ˙-˙ )