こんばんは!大人の美術館、ナビゲーターのビー玉(@beedama_lab)です。
当美術館がオープンするのは大人タイムの真夜中。
そんな当館にふさわしい。
本日は “大人”のロミオとジュリエット・・・というか、ロミオとジュリエットの元ネタと言われる
「トリスタンとイゾルデ」のお話をロマンチックにお送りしたいと思います。
源流はケルト神話にあるとも言われて、現存する物語としては世界最古の恋愛物語は、ハードな不倫モノでもありました。
(ちなみに世界最古の恋愛長編小説と言われるのは日本の源氏物語)
数多くの芸術家たちを魅了した禁断の愛の世界にあたなはをナビゲートします。
よろしければ最後までお付き合いください。
トリスタンとイゾルデってなに?
ドイツで活躍した音楽家ワーグナーのオペラで有名なので、日本ではドイツ語読みの「トリスタンとイゾルデ」と呼ばれることが多いですが、ドイツではなくイギリスが舞台となっているお話です。
英語では「トリスタンとイスールト(Iseult)」、フランス語では「トリスタンとイズー(Iseut )」と呼ばれていて、愛し合う2人は世界で最も有名なカップルなのです。
もともとはケルトの伝説を吟遊詩人たちが人々に語り聞かせていたもの。
原典が紙の状態で残ってているわけではなく、吟遊詩人の数だけアレンジされてエンディングもエピソードも数限りなくあります。
それを12世紀に詩(韻文)としてまとめられ、13世紀にはフランスで長編ロマンス小説(散文)として世に広まっていきました。
チャールズ・アーネスト・バトラー『アーサー王』1903年
有名なアーサー王の物語よりも古いにもかかわらず、なぜかアーサー王物語に組み込まれ、主人公であるトリスタンはアーサー王の円卓の騎士の1人に数えられ、同じく円卓の騎士ランスロットに次いで人気のある騎士となっていきます。
無理矢理円卓の騎士に加えられたものだから、円卓の騎士の使命である聖杯探索に積極的に加わるでもなく、なんとなく浮いた存在になっちゃってますけどね(´^`;)
薄幸の生い立ち、容姿端麗、文武両道、ハープの名手という少女漫画の主人公のようなトリスタンが恋したのは叔父のマルク王の妃イゾルデ。
モーリス・ララウ『トリスタンとイズーのロマンス』1910年
王・王妃・騎士の三角関係、悲恋ですわよ( ´艸`)♡
騎士道は無効化!抗えない恋の媚薬
トリスタンは生まれる直前に父を、生まれてすぐに母を亡くし、「悲しみの子」という意味のトリスタンという名前をつけらます。
コンウォール地域
母の兄でコンウォールのマルク王に引き取られて、優秀な騎士として立派に育ちます。
マルク王に忠誠を誓い、攻め込んできたアイルランドの騎士モルオルトを倒し祖国を守ります。
戦いには勝ったものの、モルオルトに毒を受けたトリシタンは解毒することができるというモルオルトの姉(婚約者という説もあり)イゾルデに身分を隠くして近づき、命を助けられます。
これが運命の人イゾルデとの出会い。
この時は、お互いに意識することなく別れます。
運命が動き出すのは再会の時です。
ガストン・ブッシエール「プリンセス イゾルデ」1911年
アイルランドの王女であるイゾルデは同盟の証としてマルス王に嫁ぐことが決まり、迎えに来たのがトリスタンでした。
イゾルデはコンウォールに向かう船の上で弟の仇であるトリスタンを自らの命をかけて毒殺すること決意。
ガストンの描くイゾルデはそんな決意の表情なんです。
無理心中を図ったイゾルデはトリスタンと共に毒入りのワインを口にしたものの・・
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス『トリスタンとイゾルデ』1916年
2人は毒を飲んだはずなのに、死ぬのどころか恋に落ちます。
それもそのはず、2人が飲んだのは「毒」ではなく「恋の媚薬」
いつは、イゾルデの母は敵国に嫁ぐ娘を心配して初夜の床でマルス王に飲ませるようにと「媚薬(ほれ薬)」を密かに侍女に渡していたんです。
おそらくアイルランド王家の女性は毒や薬を扱う家系だったんでしょうね。
ウィリアム・ストット『王女イゾルデ』1891年
トリスタン殺害の計画を知ったイゾルデの侍女がイゾルデを守るために事前に毒と媚薬を入れ替えていたんです。
ウィリアム・ストットはトリスタンの視点で恋落ちた瞬間のイゾルデを描いています。
信じられないといった表情ですが、この後すぐに2人は激情のまま船の上で肉体的にも愛し合います。
媚薬効きすぎw
ハーバート・ジェームズ・ドレイパー『船上で媚薬の飲んだトリスタンとイゾルデ』1901年
アーサー王の物語に組み込まれてからは、騎士たるものは媚薬に惑わされるんていかがなものかってことで、
自分の気持ちに素直になる薬だの真実の愛に目覚める薬だったんだとかすり替えが行われますが、媚薬と大差ない気がする( ˙-˙ )
処女を失ってしまったイゾルデは、マルス王との初夜には侍女を替え玉にして事なきを得ます。
なんてことをするんだって思うかもですが、中世で結婚前の処女喪失は死罪にも値する罪だったんです。
なりふり構っていられません。
処女性が大事だった時代の話しはこちら↓
それほどの罪を受ける可能性があるにも関わらず、後先も考えずに関係を持ってしまうという媚薬の恐ろしさ。
もちろん結婚後も衝動は抑えきれません。
2人はこっそりと逢瀬を重ねます。
なかなか積極的ですね
さまざまは愛の末路
エドモンド・レイトン『トリスタンとイゾルデ』1902年
人目をはばかってるつもりでも、2人の親密な雰囲気でだいたいわかりますよね(^▽^;)
上手く隠せてるというのは本人たちだけってのはありますね
周りからの告げ口もあり、最初は甥と妻を信じようとしていたマルク王もさすがに無視できず2人を監視して証拠をつかんでしまうんです。
恋人同士が愛を語ってるロマンチックな絵って感じで
もう1人の男の存在なんて気づきもしないかもだけど…
ボチボチ修羅場な絵です😅
世界最古の恋愛物語は不倫モノ💦 pic.twitter.com/YqvAt2rbCj
— ビー玉@真夜中の美術館 (@beedama_lab) September 16, 2021
その後のトリスタンの最後にはいくつかのルートがあります。
マルク王に刺されるルート
15世紀の写本
2人の密会に逆上したマルク王に刺されてジ・エンド(((;꒪ꈊ꒪;))):
ある意味、もっともシンプルで被害者が少ないルートです。
逃避行ルート
死刑を申し渡されたトリスタンはイゾルデを連れて逃亡
2人は森にへ逃げ、しばらくは幸せに暮らしますが、それがエンディングとはなりません。
ガストン・ビュシエール『トリスタンとイゾルデ』1911年
恋の媚薬には期限があって、効き目は3〜4年。
2人が逃げ込んだ森でその期限を迎えます。
2人の間に愛情は残ってはいたものの、生まれながらなにして騎士としての心得を叩き込まれたトリスタンにとって、忠誠を誓った主君を裏切り続けるほどの強い愛の衝動は無くなったのでしょう
イゾルデをマルク王の元へ帰し、自らも許されて社会復帰を果たすというもの。
いやぁ3〜4年というのがリアル!!
一般的な恋の期限と一緒ですね
トリスタンとイゾルデを不倫に走らせた恋の媚薬「ほれ薬」って、いわゆる恋愛ホルモン『フェニルエチルアミン(PEA)』ではないのか説をここに提唱します(`・ω・´)キリッ
ロミオとジュリエットは10代の若い身空でたった3日間愛し合っただけで死をも受け入れました。
ある意味3日間という短い期間だったからこその悲劇だったんでしょう。
マルク王にイゾルデを返したからと言って、めでたしめでたしでは終わりませんよ!
イゾルデがいなくなったことでコンウォールとアイルランドの間で戦争が起き、コンウォールが勝利するもののトリスタンは戦死。
戦争では死者もたくさん出ただろうし、2人の愛の逃避行のせいで最も被害が大きく出てしまったバッドエンドとも言えます。
まだまだ続く悲恋の連鎖
愛を育んだ森を出て、愛よりも忠義をとったトリスタン。
一度は君主を裏切った身、コンウォールに留まるわけにはいかずヨーロッパ中を旅します。
そこで出会ったのが愛する人と同じ名前を持つイゾルデ。
ややこしいので、「白い手のイゾルデ」と呼びます。
元カノと同じ名前というだけで結婚を決めたトリスタンでしたが、どうしても妻を愛することができません。
そんな時に、またしても毒をうけてトリシタンは瀕死の状態になるんです。
マルク王の差し金説、アイルランドとの戦争説といろいろあるんがですが、解毒できるのは元カノのイゾルデだけというのは変わりません。
コンウォールにいるイゾルデにSOSの使者を出します。
果たしてイゾルデは身を引いた自分を助けるために危険を冒して来てくれるのか?
一刻も早く結果を知りたかったトリスタンは帰りの船にイゾルデが乗っているなら白い帆を、乗っていないなら黒い帆をあげて欲しいと使者に頼みます。
数日後、戻った船を見つけた白い手のイゾルデはトリスタンに「黒い帆です」と告げます。
黒い帆=イゾルデは自分を見捨てた・・。
「黒い帆です」という言葉に絶望したトリスタンは生きる気力をなくし絶命。
しかし、本当はイゾルテは駆けつけ、船は白い帆をあげていたんです。
嫉妬心から嘘をついてしまった妻「白い手のイゾルデ」を誰が責められましょうか・・
アウグスト・シュピース『トリスタンとイゾルデ 愛の死』1869年
ドイツ・ノイシュヴァンシュタイン城の壁画(寝室)
トリスタンを永遠に失ったイゾルデもトリスタンの後を追うようになくなります。
可哀想だとは思うけど・・妻の前でこれ見よがしに抱き合って亡くなるとか引くわぁ( ๑º言º)
そんな2人に同情したマルス王は2人を一緒に埋葬します。
14世紀写本より
いつしか2人の墓からはツタが長く伸び、決して引き離せないように強く絡まるのでした
おしまい
・・・・。
誰も幸せにならない話しではありますな( •ὢ•)
このお話はラファエロ前派の画家たちに好んで描かれたから、ため息ができるほど綺麗だし耽美ですよ!
だけど、共感するとしたら主人公の2人ではなくて裏切り続けても2人を信じようと努力したマルク王か、夫から愛されずに悩んだであろう「白い手のイゾルデ」だという私は恋愛ホルモンのフェニルエチルアミンが圧倒的に不足してるのかもw
どうしてこの物語が世界でこれほどまでに愛されるのか私にはわかりませんが、情勢が不安定で誰もが不安だった時代にはどうあっても幸せにならない2人の物語は共感を持って語られたのかもしれませんね。
不倫はよろしくないですが、このお話から派生した芸術は美しいものが多いので、不倫は嫌いでも芸術は嫌いにならないでってことで
ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を聴きながら、本日は以上です。
オペラや演劇を見るときの予備知識としてもらえると嬉しいです。
またのご来館をお待ちしております(*ˊᵕˋ*)੭
【参考にした本】
コメント
( ゚д゚)ウム ワーグナーのオペラを聞きなおしてみる。
世界最古の恋愛物語がまさかの…
と思いましたが、昔の方がもっと結婚や恋愛に制約があったから余計なのかもしれませんね^^;
ガストン・ブッシエールの「プリンセス イゾルデ」の目に引き込まれました!
ものすごく強い意志を感じる。。。
その意志を曲げるほどの媚薬って現存したら恐ろしや~です(笑)
フェニルエチルアミン不足なので、恋の感触忘れたなぁ。
ツタで二度と離れなくなった二人と読むと素敵だけど、絵を見ると体のど真ん中からツタが、、、痛そう。